熱電材料とは,熱電現象(ゼーベック効果およびペルチェ効果)を用いて,熱と電気を相互に変換する材料です.ゼーベック効果を利用すると,熱から電力を生み出すことができます.この技術を使うことで,無駄に捨てられている排熱から電力を回収できます.化石燃料の枯渇問題,その燃焼に伴う地球温暖化ガス排出問題,東日本大震災に端を発する電力の価格高騰などの諸問題を大きく緩和させる技術として注目を集めています.しかし,発電効率の問題と利用される材料の価格や危険性の問題から,熱電発電技術は,広く普及するに至っていません.安価で安全な材料を用いて,高い変換効率を有する熱電発電素子の開発が強く望まれています.
熱電発電の効率は,発電素子内で利用される材料の物性(ゼーベック係数S,電気伝導度σ,熱伝導度κ)から決定される無次元性能指数(ZT=S2σT/κ)の増加関数になっています.すなわち,良い熱電発電素子を開発するためには,大きなZTを示す材料を創製することが求められます.しかしながら,材料の物性が互いに相関しているために,ZTを増大させることは容易ではないことも知られています.例えば,ゼーベック係数,電気伝導度,電子熱伝導度は,電子構造(伝導電子の量子状態,エネルギー分布,運動量分布),キャリア濃度,電子散乱により決定されていますが,一定の電子構造下では,ゼーベック係数がキャリア濃度の減少関数であるのに対して,電気伝導度や電子熱伝導