学長メッセージ
足跡のない方へ、ためらわず挑んでいく。大学での学びが、その先を照らす光となれるように。
私の父は航空機のエンジニアを志す青年でした。しかし終戦で航空学科が閉鎖されたため道を断たれ、模型飛行機づくりでその夢を追い続けました。ただの板切れと竹ひごが、そんな父の手で精巧な飛行機に生まれ変わっていく過程を眺めながら、私も工作が好きになり、モノづくりに懸ける情熱も学んでいった気がします。
中学生になるころ、ラジオやテレビはすっかり普及していましたが、なぜ空気中を電波が飛び、人の声が聴けるのか?その仕組みが不思議でたまらず、電子部品を買い揃えてはラジオやアンプを自作するようになりました。
さて私の専門、光電子デバイス工学は、スマートフォンや光通信に不可欠なものとして現代社会を支えていますが、私が大学院で研究を始めた40年前は、電子工学の新しい分野として発展し始めた時期でした。その道へ進めば大企業に就職できる、高報酬を得られるなどのモチベーションではなく、純粋に面白そう、やってみたいという思いに駆られて飛び込みました。
工学を学び、研究したいと思うテーマとの出会いは、好きなことを追いかけた先、主体的な学びの先に待っているものだと思います。つまりそれは誰かから与えられるものではなく、好きで極めたいと願うことで誰でも巡り会えるものということです。本学は、そうした自由で、本当に面白いと思える学びを通して、「個を輝かせる」大学でありたいと思っています。
本学は工学部のみの単科大学であり、初年次から専門分野を定めず、機械システム?電子情報?物質工学の3分野を広く学ぶ、分野横断型の履修体系を特色の一つとしています。一般的に 学部、学科を縦割りで考えたりもしますが、ともすれば、その縦割りの領域が自分たちの全世界になってしまいがちです。しかし、研究において、自身の専門領域だけで課題解決に取り組んでしまうと、壁にぶつかることが少なくありません。というのも、複雑な問題の多くは、単一の分野では解明できない複数の要因が絡み合って生じているからです。だからこそ、分野を横断して学ぶことが天天棋牌,天天棋牌手机版になります。そうすることで、自分の専門外にも世界が拡がっていることを意識することができ、広い視野をもって研究に取り組むことができます。自分一人で解決できなければ、別の分野を専門とする人と協力すればよいのです。狭い領域で完結しない分野横断型履修は、視野や発想を拡げるという観点で大きな意味を持つと言えます。
加えて産業界では、一人で完遂できる仕事はありません。性別、年齢や国籍、地域など多様な属性の人びととつながり、協力して仕事を進め、成果を皆で社会へ還元する。技術者および研究者は孤独に思索を深める時間も天天棋牌,天天棋牌手机版ですが、活動を自由で開かれたものとすることで互いに刺激し合い、その結果仕事は急速に発展し、ひいては大きな成果が生まれるのです。
開学以来、本学は工学の専門的能力に加え、豊かな人間力や国際性の涵養にも注力してきました。しかし「国際産業リーダーの育成」と「地球課題の解決」という本学の目指すところからすれば、まだ道半ば。枠に捉われず柔軟に発想し、想いを伝え、自ら動き、理解や共感を獲得しながらチームを率いていけるのは、単に語学力の有無でなく、伝えるべき中身や人間力が備わっていてこそです。私たちは、黙っていること、おとなしくしていることをつい選びがちですが、世界では逆です。発信しないことは埋没することであり、リスクでしかありません。
だから本学は、学生の心をもっと自由にしたい。若者は本来、挑戦することに長けているはずです。その能力を解放することで、より一層、個も輝きを放ってくれるのではないかと期待しています。
豊田工業大学 学長
中野 義昭
Yoshiaki Nakano
学長プロフィール
中野 義昭(なかの よしあき)
1959年5月4日生、東京都出身、専門は光電子デバイス工学
- 学歴
1982年 3月 東京大学工学部電子工学科卒業
1987年 3月 東京大学大学院工学系研究科博士課程修了(工学博士)
- 職歴
1987 年 4月 東京大学工学部電子工学科 助手
1988 年 4月 東京大学工学部電気工学科 専任講師
1992 年 4月 東京大学工学部電子工学科 助教授
2000 年10月 東京大学大学院工学系研究科電子工学専攻 教授
2001 年 1月 東京大学大学院工学系研究科電子工学専攻長、 電子工学専攻常務委員、電子工学科長
2010 年 4月 東京大学先端科学技術研究センター 所長
2013 年 4月 東京大学大学院工学研究科電気系工学専攻 教授
2024 年 4月 学校法人トヨタ学園 豊田工業大学 客員教授
2025 年 4月 学校法人トヨタ学園 豊田工業大学 副学長?教授
- 学会等の主な活動
2017 ? 2019 年 一般社団法人電子情報通信学会 副会長
2017 ? 2023 年 日本学術会議会員(第3部)
2020 ? 2023 年 日本学術会議電気電子工学委員会 委員長
2021 ? 2022 年 米国電気電子学会(IEEE)東京支部長
2021 ? 2023 年 一般社団法人エレクトロニクス実装学会 会長
- 受賞等
2007年 6月 第5回産学官連携内閣総理大臣賞
2022年 6月 第83回電子情報通信学会功績賞
2024年 5月 エレクトロニクス実装学会賞
IEEEライフフェロー、OPTICA(旧OSA)フェロー、電子情報通信学会名誉員/フェロー 応用物理学会フェロー